すっかり出遅れてしまったが、渡辺千賀さんの本 を読んだので、感想など。既にあちこちのblogで取り上げられているので、もう目にしている方も多いのではと思いますが、わたしも出版記念パーティに参加させていただきました。と書くと、なにやらギョーカイ人っぽく聞こえるのですが、わたしが千賀さんを知ったのは約3年前、blog経由でのこと。千賀さんにものすごい興味があったので、知り合いもいないのに素で参加したのであった。その後コメントのやりとりなどがあって、現在にいたります。
さて、本のこと。ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない)と、(かもしれない)がちょっとふざけたタイトルであるが、中身もかなりふざけている、じゃなくて、おもしろい。ちなみに「2.0」と聞いただけで「おなかいっぱい」と思ってしまうのはわたしだけではないだろうが、「はじめに」として一番最初に書かれている千賀さん流の解説を読むと嫌味にならないのが素敵。
とりあえず動くソフトウェアができました、というレベルがバージョン1.0。普通に使ってもいろいろトラブルが頻出、 《10行ほど中略》 というところまでこぎつけたら3.0、となる。
つまり、2.0は「結構面白いモンに仕上がりつつありますが、まだまだ危なっかしいです」という程度。ヒューマン2.0も、グローバル化の荒波にアップアップと流されながらもなんとか形になってきたかな、でも時々水没、みたいな感じ。
3.0のあたりでニヤリとさせられるが、「2.0=ニュータイプ」みたいに大上段から語ってはいないというのがこれでおわかりいただけるかと。で、わたしのおすすめは、最低2回読むことです。というのは、おもしろくて読みやすいがゆえに、さらっと読み過ぎてしまうから。1回目は「へえぇーっ!(そんなことがあるのか)」と純粋に楽しみ、2回目を開いてみると、新たな発見がたくさんあります。
出遅れたメリットとして、いろんな方の書評を見てからこれを書いているわけですが、やっぱりシリコンバレー話(奇人変人偉人伝やカルチャー)がおもしろいと言ってる人が多い。あまりにおもしろいので、1回目だとそこの印象が強すぎるのかも。しかし、それだけだと「いつかシリコンバレーで身をたてたるぜ!」と思っている一握りの人以外には、「自分の住む現実世界とは関係ないオハナシ」と思えてしまう。が、実はこんなことも書いてある。
そして今起こっているのは、「会社から社員へのリスクの転嫁」だ。
シリコンバレーのITバブル崩壊時に一番甚大な被害を受けたのは、それまで安定した仕事をしてきた四〇代、五〇代の人たちだった。日本でも不景気で中年男性の自殺が増えたが、自殺するかどうかは別として根本的な問題は同じで、「同じ仕事をずっとしてきて、つぶしがきかなくなった頃に失業した結果、次がない」というのがそれ。
ほら、他人事じゃないでしょう?(笑) さらっと読んで「そんなリスクをとってまでシリコンバレーに行くなんて、自分にはあり得ない」と思っていても、現在自分のいる会社(職業)が、余生の蓄えができるまで絶対大丈夫で、しかもその会社や業界の中の自分の立場も絶対安泰って言える人、今の日本にどれだけいるでしょうか? ほんの一握りですよね? だから、これはそんな一握りの人たち以外の人全員のための本です。強いて言えば、ホームレスになってもいいから努力なんて絶対したくない、という人は対象外でしょうか。。まあとにかく、大企業に入ったから安泰、というわけにはいかないわたしたちの世代には、リスクのない選択肢なんて残されちゃいないわけです。そこで、実はリスクといっても100:0の賭けだけじゃないので、
うまくいかない時のロスをどうやって最小限に抑えるか
といったコツを、先行事例としてのシリコンバレーを参考にしてみましょう、という話です。
この本のエライのは、上記で触れたようなリスクの部分については淡々とした客観事実として触れるに留めて、「だからどういう風にもっていくべきか」という実の部分についてしっかり書いてあることです。たぶん、日本だと「ほぅ~ら、このままだとこぉ~んなに怖いことになるんだよぉぉ~。ほぉ~ら。ほぉ~ら。」とやった方がウケるんじゃないかと思いますが、そういう人は日本に売るほどいますので、千賀さんがわざわざやることもないでしょう。
最後に、この本にはおもしろい話がほんとに山ほど載っているのですが、個人的に一番ウケたのは「アヒルの国」のところでした。そりゃー、活き活きもするだろうて。あ、あと、結構たくさん引用してしまったのですが、まずかったら言ってください(とトラックバックしてみる)。
朝日新聞社
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どうもです~。心温まるお褒めの言葉、ありがとうございます。
タイトルを決めたのは結構前なので、そのときはまだここまで嫌味じゃなかったんですよ。とほほほほ。
引用、どんどんして下さい!
Posted by: chika | December 20, 2006 at 04:31 AM
千賀さん、本の著者ご本人からのコメント、ありがとうございますー。パーティは早めに失礼したため、あまりちゃんとご挨拶できず、失礼しました。
>タイトルを決めたのは結構前なので、そのときはまだここまで嫌味じゃなかったんですよ。とほほほほ。
そうなんですかー。なんだか日本では「2.0」はバズワード通り越して、「それがついてるだけですごい色眼鏡でみられる」可能性のあるワードとなってしまってるかもです。。起こりつつある変化に共通する特徴を「Web 2.0」と例えたのはすごくうまいし、まだまだ感も千賀さんの説明どおりなはずなんですけどね。
わたしも技術者ではないですがシリコンバレーには縁がないわけではないので、細かいネタも「さもありなん」といちいち笑ってしまいました。お国柄ネタが元々好きなので、かなりおもしろかったです。
Posted by: kush | December 20, 2006 at 08:45 AM